ポーのユーレカ2019年02月22日

モルグ街の殺人などで有名なアメリカの作家エドガーアランポーに
ついて自然科学的にも興味深い話がある。

ポーの最後の著作のユーレカという散文詩には、宇宙の神秘を直観
で解いたものが書かれているらしい。もともとは、宇宙が星で満ちて
いるなら、夜もそれらの星の明かりでこの宇宙が満ちていて明るい筈
というパラドックスがあった。当時の物理学者は誰もそのことに対し
正しい答えを出せなかったが、ポーはこの散文詩の中で、それは星が
遠くにあり過ぎるものはまだその光が地球に届いていないためだと
いうような説明をしている。現代物理学での解釈としては、ポーの説は
概ね正しい。

これはアインシュタインが相対論を発表するより半世紀も前のこと
だったという。このことから、本当に洞察力の優れた人は文学者で
あっても、物理学の世界の権威や沢山の研究者達が見いだせな
かった科学的新論理を発見することができると言える。
まあ、特別な人の例なのだろうけど驚くべきことだと思う。

但し、ポーの述べている論理は完全に正しいわけではないが本質的
には正しいと言えるのだそうだ。
宇宙はビッグバンのあと膨張を続け、現在、130数億光年の先まで
広がっている。そのような遠方からの光も実は地球まで届いている。
但し、遠くの星ほど早い速度で広がる膨張を続けているため、そこから
地球に届く光はドップラー効果により赤方偏移を受けている。
赤方偏移の結果、光の周波数は低くなり、地球に届くころには電磁波
であるマイクロ波にまで落ちている。これを宇宙背景ふく射と言い、
黒体放射の温度にして3Kの温度に相当するマイクロ波の宇宙ノイズ
として地球に降り注いでいる。
これが、宇宙が暗いことの主原因として現在認められている一つの
説明になっている。

職人の技2019年02月22日

宮大工の棟梁で有名な西岡常一という人がいた。学者との中世建造物の屋根構造について論争し、自ら、屋根を組み上げてみせて正しさを証明したことは有名である。このように、理論先行の学者は技術的洞察力においても現場でたたき上げた職人に敵わないことがある。宮大工の西岡棟梁は自分の目とこれまでの経験を通して洞察する。そして建てるときの設計図ではなく、建てて時代が過ぎたあとの姿を見通して創り上げる。即ち直観で建造物の姿形の本質を見通したアプローチを行なう。宮大工の仕事は最初に全ての設計が確定しているやりかたではなく、大まかな構想に基づいて開始し、作りながら修正し、目標に近づけるやりかたである。そのように行動することで誤差の範囲は自ずから狭まっていく。これはトップダウン的に管理することと異なり、帰納的であり、試行錯誤のアプローチであるともいえる。
管理優先の仕事のやりかたの中では、試行錯誤は望ましくないものとされやすい。しかし、考えぬきながらの試行錯誤こそは誤差の広がりを防いで目標に近付くための有益な手段なのである。宮大工が使う木材は原木を割って形成する。だからあらかじめ設計された図面とは合いようがない。我々の仕事とて同様であり、あらかじめ決めたように進むことは殆ど無いと言ってよい。だから、実際の仕事のやりかたというのは目論んだ通りにはいかず、多かれ少なかれ試行錯誤なのであり、
この中で目標に近づけようと考え抜き、試し、努力するものだろう。