EU離脱と餓死したロバ2019年09月05日

ブレグジット問題(英国のEU離脱問題)は3年間も進展せず宙ぶらりんの状態である。これは飢え死にしたロバの話と似ている。今から50年以上前に発行された 物理の散歩道(岩波書店)という本の中に「ロバはなぜ死んだ」という章がある。乾草の山を目の前に見ながら餓死したロバの話で、有名な話のため聞いたことのある人も多いだろう。腹を空かしたロバが、乾草の山が2つあるのを見つけた。早速食べようと思ったが2つとも全く同じ大きさ、同じ距離にあって、どちらの方を食うか決められないままとうとう餓死してしまった。物理の散歩道でこれを扱ったのは、この話が実際に起こりうるかという投げかけである。この話はむろんたとえ話だし、そんな馬鹿げたことが起こるとは誰も考えはしない。しかし問題はこの話のようなことが起こることが数学的に可能か?言い換えると確率がゼロでない値をとるか否かということだ。この本の中では、そのようなどっちつかずの状態や領域は物理現象でも実際に起こり得るが、運悪くそこに当たると均衡状態になり、どちらかに決着をつけるのに余計な時間がかかるという。例えば、どちらかの方向に倒れる棒が立っているとし、うまくバランスした状態が出来ると、倒れるために少しずつバランスを崩すのに時間がかかる。コンピュータでもAD(Analog Digital)変換器をつけた場合、数値の境目でどちらにするか決められない場合があってコンピュータが一瞬考えこむことがあるという。実際にはこうならないように中途半端の場合を絶対に作らないよう設計するそうである。いずれにしても、ロバが死ぬような事象は起こり得るということだ。英国のEU離脱も国民投票で賛成が50%を僅か上回るという均衡に近い状態で決定された。しかし賛成と反対が半々に近い状態というのはまさにどっちつかずの領域に入っている。しかも離脱条件も選択肢を選びかねるような不安定さである。つまりEU離脱という命題はどっちつかずの領域がかなり広いと言える。この結果、どの方法を選ぶか決めかねて3年も時間が過ぎてしまった。ロバならとっくに餓死している。このような場合、物理の散歩道には解決策としてサイコロを振る方法が挙げられている。ブレグジット問題もサイコロを振って決めたほうが余程合理的かもしれない。そんな方法は愚かだと言うかもしれないが、そもそも国民投票に安易に委ねた事が愚かだったのではないだろうか。