無線設備の変更申請をする2022年11月14日

このところずっと無線機いじりに没頭していた。
少し前、第一送信機のFT1021Xの終段MRF422がFT8の200W連続運用により破損したが、交換用のトランジスタMRF422の入手は困難でFT1021Xの修復を諦め処分した。このままでは局免許の維持もできなくなるので代わりの200W機を探したが、今の市販品は限られておりどれも一長一短があって自分の気に入るものがない。自分がポンコツのせいか金を出せば買える最新鋭機にあまり魅力を感じなくなった事もあるが、実用上の懸念点もある。特に真夏にソリッドステートの200W機をFT8のフルパワー連続で使うのはFT1021Xの経験からも心配があるが、冷却設計が十分と思われる機種は筐体が巨大で置く場所がない。妥当なサイズのものは冷却が心もとない。1kWの設備申請をすればいいのだが自宅の環境制限やTVIや検査の面倒さを考えると及び腰になるし、細々とやれればいいので200W程度の設備で十分である。色々考えた結果予備の古い小型の無線機IC721にブースターアンプを付加することでFT8の200W安定運用を狙ってみようと思い至った。
ブースターアンプとしてジャンクのFL2100Zが使えそうだが、これは元来500Wを出せるアンプであってそのままでは局免許の認定審査に通らない。しかも古い機械で、電源をオンすると凄い音とともに火花放電を起こした。調べてみるとどうやら長い期間通電されていなかったため真空管572Bが寄生発振を起こすようだ。572Bは海外の文献などによれば長く使わないと増幅度が上がって非常に発振しやすい不安定な球らしい。このためVHFの寄生発振を起こして異常なプレート電流/グリッド電流が流れ、グリッドのパラ止め用抵抗が一瞬で焼損するほどだ。電源を入れたときの爆発音はこのせいだった。発振しないようグリッドバイアスを上げてエージングをしてみたが真空管自体は頑丈で破損していない様子。電源部も特に問題なさそうなので再生を試みた。陽極電圧を下げることで572Bの利得が下がり、発振限界を下回って安定に動作することが確かめられた。572Bは許容陽極損失が160W程度しかなく、2本でも300W程度なので元々500Wの出力を出すのは無理がある。SSBならpepで500Wは可能だがFT8となるとほぼ連続動作なので効率50%と仮定すると、連続出力200Wを得るのに400Wの入力になり陽極損失が最低限200W必要となる。これに30%程度の余裕を考えると許容陽極損失290Wは必要となり、572B2本が妥当と考えられる。572B一本なら簡単に認定されるという話もあるがFT8を考えれば2本使わないとまともな耐久性が得られないだろう。
以上から、572B2本の陽極電圧を下げて軽く使えばFT8の連続200W出力でも安定性と耐久性が持たせられる。しかも入手の難しくなっている球の寿命を延ばすためにも良い。このためIC721をエキサイターとし、572B2本を励振する構成で定格出力200Wの送信機を目指すことにした。ダミーロードと電力計で測定実験を繰り返した結果、終段管は572B2本のまま陽極電圧を1200Vにし、出力はALCでエキサイターにフィードバック制御をかけることで寄生発振を抑え、安定的に200Wを出せる見通しが得られた。
次は局免許の設備認証であるが、送信機系統図と実測データ及びアンプの200W化改造の内容詳細をまとめて変更申請書案とともに以前にも使った認証機関TSSに提出して設備保証審査を申し込んだ。数か所の指摘と対応修正があったが電子申請でのやり取りは迅速だった。TSSは審査に時間がかかるという話もあるがそんなことはなく、一週間ほどで申請通りの内容が認められて技術基準適合の保証書(PDF)がメールで送られてきた。これを変更申請書に添付して最終的に総通へ電子申請を行い、問題なく審査終了できた。無線局の免許申請は技適の通った無線機でないと非常に面倒そうだが意を決してやってみるとなんとかなるというのが結論。通すのがかなり難しそうな送信機系統図でも技術的な合理性とそれを裏付けるデータがあれば通すことは可能であると言える。

FT1021Xがついにご臨終2022年09月05日

8月18日に30年間愛用してきたFT1021Xが突然送信不能になった。調べてみると最大出力200Wのところが5W程度までしか出なくなっていた。このところ高温環境なのに最大出力でFT8の運用を続けていたのでさすがに使い方が過酷過ぎたようだ。故障発生の可能性が一番高いのは電力増幅ユニットである。ユニットを外して基板を目視した限りでは部品の焼損などは認められず特に異常な部分は観察できなかった。そこでまずは問題発生個所を切り分けるため、電力増幅ユニットの信号入力部を外してその前段からのドライブ電圧を測定すると47Ω負荷で最大0.5Vp程度ある。電力換算で約5mWになる。
一方送信電力増幅ユニットは終段MRF422プッシュプル、ドライバーMRF486プッシュプル、プリドライバー2SC2166の3段構成になっている。総合ゲインは30数dB~40dB程度予想されるので入力電力5mWは十分なのか不十分なのか微妙だ。メーカーのレベルダイヤグラムが手に入らないので電力増幅ユニットが悪いのかそれより前段が悪いのかこのままでは識別ができない。このため、電力増幅ユニットの入力部にQRPトランシーバFT817の14MHzSSB出力を注入してみることにした。FT817なら最小でも100mWくらいは楽に出せるので入力レベルとしては十分である。これで電力増幅ユニットが正常なら200Wの出力は得られる筈であるが、結果はやはり5W程度しか得られなかった。このことから電力増幅ユニットのトランジスタが破損している可能性が高いと考えられる。まずプリドライバー2SC2166は切り離してテスターで当たった結果異常なし。MRF422とMRF486は簡単に切り離せないので良否確認ができないがどちらかが破損している可能性が大きい。現在の状況はここまでであるが、最大出力での過酷な使用状況から考えると終段のMRF422破損と考えて良いだろう。モトローラの電力トランジスタMRF422はネットで調べてもどこも在庫ゼロで入手不可能な状況だった。もしあったとしても価格は暴騰していてペアで5万円はするだろうから手が出ない。長年愛用してきた機械だが修復は断念するしかなさそうだ。

寄生励振アンテナ2022年05月07日

最近、ある局と交信したらアンテナは別のバンドのロータリーダイポールの近傍に平行にエレメントを置いただけの無給電の寄生エレメントのアンテナという話だった。あれ?と思ってさらに話を聞いたら別の局から教わった面白い方法で珍しいでしょう?と説明してくれた。実はこのタイプのアンテナは私が昔実験したことがある。クリエートの214Aという14/21MHzの2バンド用八木アンテナを使っていた時に28MHZバンドに簡易的に出られるようなアンテナを付加したいと思った。そこで28MHzに共振するエレメントを214Aのラジエータエレメントの近傍に設置して誘導により給電できないだろうかと考えた。近接させた28MHzのエレメントの距離や長さを調節するとうまく28MHzに共振し、誘導のみで給電することができて28MHzバンドまで使うことに成功。この方法はオリジナルがあって、ハイゲイン社のExplorerというアンテナで使われていた。しかしExplorlerは元のラジエータエレメントの両サイドに計2本の寄生励振エレメントを配置する構造だった。これはさらに古い文献を調べるとスタンフォードのJ.T.Bolljahnが1950年にUS特許を取得したOpenSleeveMonopoleが原典のようだ。ダイポールアンテナの外側に接触しないよう中空のパイプを通して同軸状に形成し、ダイポールからの誘導で非接触給電させるもの。この中空パイプを2本のエレメントに置き換えたものがハイゲインのExplorer。私が考えたものは寄生励振エレメントを2本ではなく1本に簡素化したもの。1本のエレメントでも問題なく寄生励振ができることが分かったが、1本の寄生エレメントによる方法はそれまで発表された事例はなく、この点に関しては一応の独自性があるだろうと考えている。この、一本の寄生エレメントによるバンド拡張法実験は34年前のCQ誌1988年10月号に寄稿したが、その後クリエート社のVダイポールに50MHzバンドを付加するのにこれと同じ方法が用いられるようになった。
昔行ったささやかな実験が今もアマチュアの間で使われていることを今回たまたまの交信で知って少し嬉しかった。(写真は1988年に実験した寄生励振アンテナ:214A八木アンテナのラジエータエレメントに近接して平行な別の寄生エレメントを配置した様子)

堀江謙一さんマーメイドⅢ号の航海(2)2022年04月17日

昨日マーメイドⅢ号との交信は叶わなかったが、本日の地磁気擾乱の状況はK-index=Quietと回復していて自分の貧弱な装置でも期待できそうだった。
日曜日の本日もオンエア予定があるのでアンテナを東に向け、朝9時半過ぎから再度21MHzバンドを受信してみた。既にJA3BOAが交信中で、堀江さんJR3JJE/MMの信号も良く聞こえており、昨日よりも遥かに良い入感状況だった。少し待っているとJA3BOA局がリストを取り始めたのでコールしてみるが中々取ってもらえない。関西との伝播状況は悪く、こちらからの信号は関西の局に抑えられてJA3BOA局には届かないようだったが関西エリア以外の局を指定してくれたので何とかリストに入ることに成功。その後作成リストに基づいて堀江さんと各局との交信が始まったが、関西エリアへの堀江さんの信号は弱いようでstandbyが判らず苦労しているようだった。3局程交信の後、自分の番が来たが幸い堀江さんの信号はクリアに入感しており、RSレポートはmy/his 59/55で無事に完全な交信ができてほっとした。

堀江謙一さんマーメイドⅢ号の航海2022年04月16日

堀江さんは現在83歳。今年3月26日にサンフランシスコを出発した。ヨットはマーメイドⅢ号で約2か月半かけて日本に向かう。無線は毎週末の午前10時に21.320MHzで出るということなので今日ワッチをしてみた。あいにくの磁気嵐で伝播状態は良くないが、9時53分頃にJA3BOAが堀江さん(JR3JJE/MM)と交信を開始したのが聞こえた。現在ハワイ・オアフ島付近を航行中の様子。堀江さんの信号は弱く、21~31位でフェージングの山では完全に聞き取れるが谷になると雑音に消されて何を言っているのか判らない。JA3BOAがネットコントロールをしていたが、交信は難しそうなので参加は見送った。今日は受信ができただけでも上出来と考えて次回の状態の良い時にチャレンジすることにした。台風1号はオホーツクに抜けるので大丈夫だとは思うが海が荒れないことを願う。堀江さんとは14年前2008年にヨット・マーメイドⅡ号でハワイから日本に向かう時に交信しており、その時は強力な信号で交信ができたことを覚えている。果たして今回も交信できるだろうか?写真は2008年交信のQSLカード。

珍しく無線局の訪問者あり2022年03月15日

昔はアマチュア無線をやっているとアンテナの立っている知らない家に突然訪問したりされたりという機会が多かった。無線に興味を持つ中高校生が教わるために訪問することもあったし、見知らぬ同士でも平気で訪問して親しくなることもあった。それが楽しみの一つでもあった。しかし時代は移り変わって社会の習慣も変わり、そのような積極的行動は皆無になってしまった。さらに近年はコロナ禍もあり、家への来訪者も殆ど無くなって気楽な引きこもり生活を楽しんでいる。
今日も寝間着のまま家でゴロゴロしていると珍しい訪問者があった。ドアを開けると50数年前に無線で交信した者ですと言う。直接会った事はない人の突然の訪問に驚いたが、話してみると同じ市内に住んでいて無線は長い間やめたままだったとのこと。最近またアマ無線を再開したそうで、昔交換した交信カードを見ていて懐かしくて訪問したということだった。色々な昔話や同時期に良く交信した人達の話、自作の無線機を引っ張り出しての講釈などが弾んで楽しい時間を過ごした。今や絶滅危惧種のアマ無線ではあるが、同じ市内でもアマ無線をやっている局はまだ少なからず居る。だが昨今はそれぞれ知り合い同士の輪の中で閉じる傾向が強まり、もはやそれ以外とは殆ど交流はないのが普通になってきている。そういう閉じた世界は好きではないので現今のアマ無線界とはすっかり疎遠になってしまった。しかしそれでもたまにはこういうことがあるので無線趣味も悪くない。

マウントアトス2021年12月17日

マウントアトスはギリシャ北東部にある半島で全体が険しい山。ギリシャ正教の聖地として20の大寺院がある。行政は独立している自治国家で住人は殆どが僧侶。その僧侶の一人アポロ修道士が1990年代にハムの免許を取得。SV2ASP/Aというコールサインで運用されていたが病気になって2年半ほど前に亡くなり、アトスからの信号は聞けなくなった。
(画像は25年ほど前に14MHzSSBで交信した彼のQSLカード)
一方、別の修道院のイヤコボス修道士が2015年にハムの免許を取りSV2RSGで出るようになった。最近アクティブに運用しており、先日14MHzのFT8でそのSV2RSG/Aと何とか交信ができて喜んでいる。

LED電球を使ってみる2021年12月09日

自宅の照明は時代遅れでいまだに蛍光灯と白熱球ばかりである。長い間電気スタンドに用いている電球形蛍光灯がそろそろ寿命のようなのでLED電球を初めて買ってみた。電磁ノイズが心配なのでこれまでLEDは避けていたが、値段の安いものなら試してみても良いだろうとオーム電機の60W電球相当のものを買ってみた。価格は税込で398円と非常に安い。型番はLDA7L-GAG28というもの。
早速取り付けて点灯し、電磁ノイズを調べてみた。短波帯を聞いてみた限りでは特にLED電球からのノイズらしきものは見当たらなかった。しかしこれは外部アンテナで聞いているために検知できないのかもしれないと考えて、条件の厳しい室内アンテナのFM/AMラジオでさらに調べてみた。これまでの電球形蛍光灯でもFMラジオに混入するノイズが多かったが、今回試したLED電球ではそのようなノイズが全く感じられないのに驚いた。FMだけでなくAMの色々な放送を聞きながらライトをオンオフしてみたが全く差異を感じない。これは予想外に良い結果だった。最近はインバータ式電気器具やLED照明らしきものからの短波ノイズが酷くて悩みの種である。LED自体は直流駆動なのだが、家庭用交流電源から供給するために変換に伴う電磁ノイズが宿命的なものとなっている。今回試したオーム電機のLED電球は低価格商品であるにもかかわらず電磁ノイズ特性が極めて優秀である。内部の電源回路については分からないが適切なノイズ対策がなされているのだろう。電磁ノイズは不可避なものではなく、メーカーの考え方次第で完全な対策が可能であることをこの製品が証明している。これまでの日本の電磁ノイズ基準はメーカー保護の視点ばかりで非常に緩いものであり、巷にはあらゆる電磁ノイズが溢れている。恐らく自社の製品が放射する電磁ノイズのスペクトルやレベルを測定さえしていないメーカーが多いのだろう。
メーカーがその気になれば低コストで電磁ノイズは抑えられることをオーム電機のLED電球が示してくれている。

アンテナの工事2021年11月23日

3年ほど前に取り付けた7MHzバンド用のロータリーダイポールアンテナを解体撤去した。
昔開局した時は7MHzバンドから始めたので思い出深いバンドなのだが、近年は自分の求める交信の姿とは遠くなった気がして全く使わなくなった。使わない物を単に設置し続けたくないと、穏やかな秋の日の先日に思い切って解体工事した。長さ11mほどのパイプなのでそれほど困難な作業ではないと思ったが、体力が落ちているせいか一人では思いのほか大変で全作業には半日ほど費やした。分解している時に気付いたのだが、パイプの中に1cm程度の小石が沢山入っていた。これは3年前に組付けした際に砂利の上で作業したため入り込んでしまったもの。特に影響はないだろうと思っていたが間違いだったかもしれない。このアンテナはもっと以前に使っていたことがあり、その時と比べて雨による共振周波数の変化がかなり大きくなったのが不思議だった。今回この小石を見て、その原因に思い当たった。恐らく、パイプの中に沢山入った小石は短縮コイル付近に停留し、パイプ内の水はけを悪くした。これにより雨が降った時の短縮コイルへの水による影響が顕著になって共振周波数が大きくずれるようになったのではないか? これを確かめるためには小石を取り除いた状態でもう一度上げてみる必要があるが、それほどの気力はないので確かめきれてはいない。
今回撤去の結果、鉄塔の上のアンテナは14~28MHz5バンド用の3エレ八木アンテナ一本だけになった。見た目はシンプルでスッキリとしたし、出られるバンドもよく使うものに絞られた。太陽活動も活発になってきているので今後はこれらのHFハイバンドに集中して行きたい。久しぶりの作業で筋肉痛が酷かったが中々取り掛かれないでいたことをやっと実行できて満足している。

送信電力の低減2021年11月16日

今夜寝床で聞いていたNHKラジオ第一放送で午前1時になる時に送信電力低減のアナウンスがあった。いつもは「放送設備の点検・整備のため午前1時から午前5時までの間出力300kWから200kWに落として放送します」というのが聞き慣れたメッセージだった。この程度の減力だと変化は全く感じ取れない。ところが今日は「出力300kWから10kWに減力します」という内容で、一瞬間違いではないかと思った。しかし減力後の信号は確実に弱くなり、ノイズも混じるようになったので10kWは間違いではないようだ。これは点検・整備のためとは言っているが資源保護のための省エネルギー化の実験も兼ねているのではないかと思う。300kWから10kWだとエネルギー量で30分の一となる。電界強度では5分の一以下くらいだろうか。出力をこれほど下げてもまだ十分聞き取れることが分かって面白い経験ができた。大昔のNHKはたしか500kWくらいまで出していたことがあったと思う。そのころは手作りゲルマニウムラジオでも十分な音量で聞こえたが今ならどうだろうか。
アマチュア無線でもより低電力での交信は推奨されている。無線運用規則にも「無線業務を満足に行うために必要な最小限の電力を輻射すること」と謳われている。昔の無線業務日誌を見ると1984年に自作の50MHzSSB用トランスバータで実験的に50mW程度の出力で運用したのが自己最小出力のようだ。ログによればこの50mW出力で当時10局程度と交信している。中でもJJ1IPB/1とは相手側も250mWという小出力同士で信号レポートhis59/my51、また静岡県の移動局JP1EQO/2とも59/41で交信ができている。大きい出力なら当たり前の話なのだが低出力で交信ができるとわくわくしたものだ。