きりぎりす 太宰治2019年12月01日

NHKラジオの「朗読」で太宰治の短編を放送している。その中で「きりぎりす」は貧乏画家に嫁いだ女性の語り口で描写される。この女性は名家に育ち、もっと良い縁談が沢山あったが敢えて冴えないこの画家に惹かれる。世間から認められない人を自分だけが理解し支えることができるというヒロイン妄想もあったかもしれない。親達から反対される中で嫁いだ。貧乏であったが妻は自分だけがこの人を支えられることが幸せだった。そのうち世間での評価が高まり画家として成功してゆく。住まいもアパートから不似合いなほどの立派な家に転居していった。しかしそれにつれて夫はどんどん無名だった頃の孤高さや純粋さを失い、只の守銭奴で嘘つきで見栄っ張りな俗物に変わっていく。最初の頃は自分だけが唯一の理解者であったのに今は世間の皆が表面だけの理解者になってしまった。妻が最初に理解した画家はもういなくて薄っぺらな上っ面が世間にもてはやされるだけのくだらない男になってしまった。妻はこんな夫に愛想を尽かして離縁しようと考える。
太宰も作家として世間に評価されて高名になるにつれ、この画家のような俗物化して堕落する自分が情けなくて仕方なかったのだろう。夫の画家とその妻はともに太宰自身かもしれない。画家の妻は最後に床下で鳴くこおろぎの音を聞いて、自分の背骨にきりぎりすが鳴いている気がした。自分はこのきりぎりすの世俗から離れた幽かな声を忘れず、自分の背骨にして生きようと妻は決意する。

ボクの自学ノート2019年12月04日

12月4日の真夜中に目が覚めたのでテレビをつけたらNHKスペシャル「ボクの自学ノート~7年間の小さな大冒険」というドキュメンタリーの再々放送を行っていた。何気なく見始めたのだが結局最後まで見てしまった。15歳の高校生梅田明日佳君は小学生のころから自分で決めたテーマの記録「自学ノート」を続けている。今の小学校では自宅での学習として自学ノートというものが宿題になっているそうで、梅田君のノートもこの宿題から始まって習慣になった。殆どの人は小学生の頃の一時の経験で終えるが梅田君は違っていた。長く続けるだけでなく、テーマ材料を新聞などで見つけると現地まで出向いて取材し、詳細な探求をする。地元の時計店の新聞記事を見て訪問しノートにまとめてその時計店の社長に見せたらとても高く評価してくれた。さらに博物館などの探訪記も皆が驚き絶賛した。母親の理解や支援もあって中学生になっても自学ノートは続く。2018年には子供ノンフィクションの大賞にまで選ばれた。しかし学校での梅田君はそうスムーズではなかった。授業中でも頭の中は自学ノートのことで一杯だった。学校の授業や活動は「やり過ごす」だけのものでしかなく、家に帰ってからや休日、長期休みが彼にとって一番の大切な活動時間だった。私自身も少し似たような子供時代があって生きにくさを感じたから良く分かる。中学3年になって進学に直面した時、画一的な社会への適応要求が降りかかる。自分の好きなことに存分打ち込む生き方の難しさが現実の社会にある。これまでの日本は特にそうだった。しかし現代はこのような子供を理解し支援する人たちも増えてきているようだ。画一的でない子供を潰してしまうようなかつての日本とは少しずつ変わってきていることが期待される。社会がそのような人を認めるように変わらなければ日本自体が生き残れないのではないだろうか。

COP252019年12月13日

COP 25(The 25th session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change:第25回国連気候変動枠組条約締結国会議 )は13日までマドリードで開催されている。日本は温暖化対策を妨げる代表的な国として化石賞が環境NGOから与えられた。理由は日本が温暖化ガス排出削減目標を引き上げられず、石炭火力発電への姿勢を変えていないことによる。また異常気象による世界で最も深刻な被害を受けたのは記録的豪雨や台風の被害を受けた日本だったとも発表された。温暖化対策への取り組みの評価では、日本は61カ国中51位と低い。上位はヨーロッパ諸国が多く、アジア主要国の中でもインドは9位、中国30位と日本より遥かに高い。これには色々な事情がある。ヨーロッパが比較的評価が高いのは再生可能エネルギー発電への積極取り組みもあるが、まだ原子力発電への依存度も高いためである。太陽光などの再生可能エネルギーによる発電は原理的に出力が安定せず昼夜の変動が極めて大きいから原子力発電などの安定発電源で補わなくてはならない。しかし日本では福島の事故により原発稼働割合が極端に減少したため火力発電により需要変動を補完して安定化調整せざるを得ない。他方、二酸化炭素の排出量については中国が最大で、アメリカ、インド、ロシア、日本と続く。また国民一人当たりの排出量はアメリカが最大で、韓国、ロシア、日本と続き、中国はずっと低い。中国は貧困層が多く平均するとエネルギー消費が少なくなる。いずれにしても、どのような指標においても日本は悪さで上位にある。深刻なのは日本の場合、原発が用をなさないため打つ手が限られる点にある。日本ではこれまで長い間、原発の恩恵を受けてきた。このため、深夜電力を余らせないように使う給湯システムやコンビニ等の24時間営業、深夜電力料金の大幅値引き、不夜城のような都会、24時間操業などが疑問もなく定着し、多くの人の生活もそれに合ってしまっている。火力発電を抑制しつつ電力源を再生可能エネルギー主体にするには原発の稼働率をもっと増やす必要がある。これが無理であれば、できることは国民が今の贅沢な生活レベルを下げる方法がある。一旦享受した生活レベルを下げるのは難しいが、夜中の消費電力を徹底的に下げること。こうすれば昼間余って夜間に不足する再生可能エネルギーを補完する火力発電は不要となる。これまで努力してきた電力消費量の変動の吸収安定化ではなく、発電出力の昼夜変動に合わせた消費形態にする。このためには夜間の電気料金を現在のように割安にするのを止め、逆に極端に値上げすることが有効になる。現実には色々な問題が生ずるため以上述べたように単純な話ではないが、発電量変動にダイナミックに追従するような発想の転換も必要かもしれない。

太陽黒点サイクル25の予測(2)2019年12月18日

NOAA (National Oceanic and Atmospheric Administration米国海洋大気庁)は12月9日、太陽黒点サイクルの最新予測を発表した。これは今年4月5日に発表したものに引き続く。NOAAによれば次のサイクル25のピークは2025年6月(±8か月)であり、黒点数は115±10。そしてサイクル24と25の間の極小時期(サイクル25の開始)は2020年4月(±6か月)になるだろうとのこと。(上のグラフはクリックすると拡大します)
今年4月の予測では、2019年の終わりから2020年にかけて極小期 に達したあと、2023~2026年には太陽活動極大期となり、ピークの太陽黒点数95~130の範囲に達するということだったから大きな違いはない。
現時点では黒点数がゼロに近い状態が半年ほど続いており、短波帯の中でも周波数の高いバンドの電離層伝播は芳しくないが、2023年以降あたりから良いコンディションが期待できそうである。黒点数は統計的には偶数番号より奇数番号が良い傾向なのでサイクル25は24より良くなるか?と期待してしまうが予測ではほぼ似た傾向に収まっている。

鏡に映る像2019年12月21日

昨日のNHKテレビ「チコちゃんに叱られる」で、鏡はなぜ左右が反対に映るのか?という問題を放送していた。この問題は心理学的にはまだわからないというのが答えだったが、物理的には前後が反転しているからということでよいのだと思う。
鏡に映る像がなぜ反転するのかは3次元の直交座標(デカルト座標)で考えるのが一番判りやすい。横方向をX座標とし、縦方向をY座標とする。そして奥行き方向をZ座標とした直交座標を鏡に映すとX座標軸とY座標軸の方向は同じである。しかしZ座標軸だけは方向が反転しているのがわかる。つまり直交座標を鏡に映すと、縦横は変わらず奥行き方向だけが反転している。実体の座標を例えば右手系座標とした場合、映っているのは左手系座標ということになる。従って鏡では左右が反対に映っているわけではなく、奥行きつまり前後方向だけが反転していると言える。右手系座標を回転や平行移動させても左手系座標に重ね合わせることは出来ず、両者は全くの別物である。右手系を左手系に変換するにはXYZ座標軸のどれか一つを反転させればよい。鏡の例ではZ座標が反転するため右手系が左手系に変換されたことになる。電磁波である光が鏡で反射された場合でも座標変換が起こるが波の進行ベクトルが反転するだけで電磁波自体の電場と磁場の関係は変わらずに伝播する。つまり光の方向が変わるだけで性質に変化はないと考えてよいだろう。
但し、フレミング則では左手則(ローレンツ力の発生によるモーターなどの原理)と右手則(電磁誘導による発電機などの原理)がそれぞれ左手系・右手系座標に対応するので鏡映関係にある。また分子構造などにおいても鏡映関係の分子は異性体となる。このように自然界では座標の右手系左手系によって性質の変わらないものと変わるものがあるのは興味深いが私にはこの辺の根本のところは全くわからない。

ABC予想2019年12月25日

abc予想とは互いに素(共通の素因数を持たないこと)な正の整数a,b,cにおいて、a+b=cの関係があるときa,b,cの素因数の積をdとすると
c>d^(1+ε)を満たすa,b,cは有限個しかないという数学予想。但しεは0より大きい任意の数。具体的には例えばa=5,b=27,c=32の場合、d=5x3x2=30だからε=0.01でもd^1.01=31.038<32となり条件を満たす。しかしa=8.b=9,c=17の場合はd=2x3x17=102だからε=0でも17<102となって満たさない。このように満たさないケースのほうが圧倒的に多い。なお、1+εによる巾乗の意味は条件を満たすabc組み合わせを有限個に抑えるための工夫である。本質的にはa+bという足し算とdという素因数の掛け算からなる異なる演算の間の関係性を論じるもので、これが証明されると色々な未解決問題を解決できる見込みがあるそうだ。このabc予想の証明につながる理論を2012年に京都大学の望月氏が自分のウエブサイトに発表したということだった。しかしその論文は600ページ以上に及ぶ上、難解でだれもその理論の正否を確認できないという話であった。発表から7年が過ぎたが相変わらず証明されたという話は聞かない。その間に望月論文は数学誌に掲載されたが査読はまだ完了していないそうである。しかし、この数学誌は身内の京都大学が発行し、望月氏自身が編集者であるというからお手盛りの感が否めない。難解すぎて世界で誰も理解できないという話がもてはやされているが、これには少し疑問を感じる。正しい論文であればどんなに難解でも世界のエキスパートの誰かが査読できるはずである。長年かかってもそれができないのは論文に誤りがあるか又は証明方法に不備があって理解不能にしている恐れも考えられる。内容については難し過ぎて何もわからない話だが今後の解明を期待したい。

直近の太陽活動状況2019年12月26日

12月24日太陽面に新しい黒点活動領域12753と12754が出現した。この2つは磁極が反転しており、新サイクル25の黒点と判定された。
黒点の磁場の極性は太陽の中を流れる流体によるダイナモ機構によって決まり、サイクル毎に極性は反転するので黒点の極性を観察すれば旧サイクルのものか新サイクルのものかが判別できる。12753と12754の極性が反転していることから、サイクル25は順調に立ち上がりつつあると見てよい。前回のサイクル24では、この磁場極性の反転が遅れ、17世紀の太陽活動停滞期マウンダー極小期の再来が懸念されたが、今回の出だしは順調と見られ、マウンダー期再来の懸念は払拭されそうだ。
(上の画像は24日の太陽面の状態 http://www.solen.info/solar/ より)