空間と時間の概念(2)2019年05月17日

1905年にアインシュタインは特殊相対性理論の論文を発表した。原題はZur Elektrodynamik bewegter Körper(運動物体の電気力学)という。冒頭で磁石と電線の間の電磁相互作用(ファラデーの電磁誘導)を例にとって、磁石の運動と電線の運動との相対運動による発電が論じられる。磁石が動く場合でも電線が動く場合でも電線に発生する電流は同じであり、識別できない。このことからニュートンの法則の成り立つ座標系(慣性系)においてどのような座標系から眺めても電磁気あるいは光の法則は変わらないという推論が立てられる。これを相対性原理と呼ぶ。この推論を展開する前に、1905年の論文以前の考え方について振り返ってみる。19世紀までは電磁波(光)を伝える空間にはエーテルという仮想物質の媒体が宇宙に満ちていると考えられていた。静止したエーテルの中では地球がある絶対速度で運動している。静止したエーテルの中を光(電磁波)がマクスウェルの電磁波方程式に従い、光速cで伝播する時、地球は動いているので地球から光を見れば、その速度はcとは違っているはずであると考えられた。そこで1880年頃マイケルソンとモーリーがその光の速度を測定した。その結果、光はどの方向を測っても同一の速度cであり、予想外の結果となった。これから考えると地球が静止していなければならない。宇宙の中で天体はどれも動いているのに地球が静止していたら中世の考え方に戻ってしまう。そこでこれを説明するためにローレンツは1892年に長さの収縮を唱えた。これは物体がエーテルの中を速さvで走るときこの物体が走る方向の長さは√(1-(v/c)²)だけ縮むとする。これがローレンツ収縮(変換)である。しかし彼はまだエーテルという仮想媒体を想定していた。アインシュタインはこれより少し後に同じローレンツ変換を導出したが、それはマイケルソンらの実験結果に帳尻を合わせるための式ではなく、相対性原理と光速一定の原理の2つを矛盾なく両立するために導出したものである。アインシュタインがマイケルソンの実験やローレンツ収縮を参考にしたのかどうかはよくわからない。ただアインシュタインの理論にはエーテルという仮想媒体を必要としなかった。またアインシュタインよりも早くポアンカレは同様な相対性原理に到達してエーテルが検出できないこと、ローレンツ収縮や速度により変化する質量、光速が越えられないことなどに気付いていたようだ。このように先駆者は混沌としているが、1905年のアインシュタインの論文にはそれまでの先行研究の引用文献がない。それは論文の独自性を主張している。

量子間の情報伝播2019年05月21日

まず例え話として一つの粒子を2つに分けたとする。すると分けられた夫々の粒子の状態、例えばスピン(回転)の方向は夫々反対の向きになる。これは角運動量保存の法則で説明できる。しかし粒子の夫々のスピンの方向は測定しない限りわからない量子状態にある。一方の粒子を遠く離れた場所まで引き離し、他方の粒子の状態を観測するともう一方の粒子の状態が決まる。つまり測定した粒子のスピンが上向きなら遠く離れた粒子は下向きのスピンを持つ。これはあたかも一方の粒子の状態を測定した途端に他方の粒子にその情報が伝わるかのようであることから量子テレポーテーションと呼ばれる。この時、2つに分かれた粒子の距離がどれほど遠くても成立するので光の速度を超えてスピン状態が伝わるかのようである。この問題は不思議で自分の理解力では歯が立たないのだけれど、自分なりの推論を述べてみたい。まず古典的に説明しようとすれば、最初に2つに分けたときにスピン方向が決まるため、お互いは必ず逆であり、片方のスピン状態が分かれば他方は必ずその逆であるから別に何の不思議もなく、最初から決まっていることであるという決定論的帰結になる。しかし、これだと夫々の粒子の状態が最初から決定していることが必要だが不確定性原理によってそれは否定される。つまり、粒子は確率的にどちらの状態も取ることができ、測定されるまでその粒子のスピン方向は定まらない筈である。そこで、一方の粒子を測定した時、まだ他方にはその情報は伝わっていないと考える。他方の粒子は2つの状態が重ね合わさった状態にあり、一方の粒子のスピン方向の情報が他方の粒子に伝えられるとその情報に基づいて他方の粒子のスピン方向が角運動量保存の法則により選ばれて決まると考えれば矛盾は生じない。一方の粒子と他方の粒子のスピン状態の情報は両方が分かれた時にお互いが持っているが、量子の重ね合わせ状態にあるためそれだけでは確定せず、一方の観測結果の情報によって他方の粒子の状態が確定すると考える。結局、瞬間移動などというものは起こっておらず、一方の粒子の測定によって得られた情報が他方の粒子の状態を決める情報を完結させると言ったらよいだろうか。一方の粒子の状態が測定されるまで他方の粒子の状態は決まらず、2つの状態が重なっている。そして測定した情報の伝播によって2つ重なった状態のうちのどちらかが選択される。以上の考え方であれば不確定性原理に従っており、また情報は光速を超える必要もない。

モールスによる長距離通信2019年05月24日

今日はモールスと助手のベイルが発明した電信装置と符号により、初めて長距離通信実験をした日。1844年5月24日ワシントンDCとメリーランド州のボルチモア間で通信実験が行われた。モールスと助手のベイルは電流のオンオフによる信号を送出するための手作りの電鍵と、その電気信号に応じて電磁的に吸引力を発生して印字させる受信機を使ったようだ。通信回線は2本の導線であり、電鍵によって導線に流れる電流を断続して、その電流変化で遠方にある電磁石を動作させる。電磁石には可動鉄片が信号に応じて動き、それに針が取り付けられて紙テープに針先からの押し付け跡を記録させる仕組みになっていたと思われる。紙テープは重力錘によって一定速度で紙送りされることにより、時系列で信号が記録できる。通信距離を延ばすために線路の途中に継電器(リレー)を入れて中継したようだ。信号は長点と短点の組み合わせでアルファベットに対応させる今日のモールス符号の原型だった。長点と短点を組み合わせただけのモールス信号による通信は現在ではアマチュアの無線電信通信くらいにしか使われなくなった。しかしこの無線電信方式は使用する帯域幅が狭くて済む。シャノン・ハートレーの情報定理によれば信号対雑音比S/Nは帯域幅に逆比例する。例えば帯域幅を半分にすればS/Nは3dB改善される。音声通信の必要帯域幅に比べて電信通信ではその十分の一程度の帯域幅で済む。その場合S/Nは10dB程度改善されることになり、電話に比べて電信が遥かに微弱な電力で交信可能ということがわかる。事実電信なら2Wくらいの小出力でも全世界と交信することはそれほど難しくない。電信は0と1の2進数組み合わせによるデジタル通信の原型であり、今日のデジタル通信に繋がっているとも言える。

放射冷却の利用可能性2019年05月26日

このところ夏のような暑さが続いているが、電気を消費しない冷房はできないものだろうか。以前、人から聞いた話だが放射冷却という方法がある。伝熱には熱伝導や対流のほかに輻射伝熱があり、電磁波による熱エネルギー放射だから真空中でも伝熱できる。全ての物質はその温度に応じた熱エネルギーを輻射している。黒体輻射のエネルギーをEとし、絶対温度をTとすると、E=σT⁴という関係がある。これをステファンボルツマンの法則といい、σはその係数である。簡単に言うと黒体の全輻射熱流束は絶対温度の4乗に比例するということで、絶対温度の上昇に伴って輻射される熱流束は急激に増加する。宇宙はビッグバンの名残りの背景輻射で3Kの絶対温度つまりマイナス270℃位の超低温であり、太陽が沈んだあとの宇宙から地上へ流入する熱輻射は殆どゼロである。一方地上の熱は宇宙に向かって輻射放散されるため差し引きで地面が冷やされる。昼間は地上が太陽熱で温められるが、太陽が沈み、晴れ渡った夜は急速に気温が下がるのはこのためである。(夜間でも雲がある場合は地面からの輻射が雲に吸収されて温まり、この雲から熱が地面に再放射されるから放射冷却効果は小さくなる)。これを使えば宇宙に熱を捨てることによる冷却が可能となるが今の所、晴れ渡った夜間しか実現できない。外からの逆の熱流入がある場合は遮断しなければ温められてしまうが、遮断すれば中からの輻射による熱放出もできなくなるというジレンマがある。侵入する熱源としては太陽や空気等による輻射熱や伝熱や対流熱がある。これらが侵入熱<放射熱となるような遮蔽板があれば晴れた夜間でなくとも放射冷却が可能となる筈である。これを実現するには内側から外に出る輻射を透過し、外から侵入する熱は遮蔽や反射する材料が必要だ。イメージ的には内側から見た場合。透明なガラスのようであり、外から見ると鏡のように光を反射するマジックミラーのような板だろうか。これに近い材料は近年実現しつつあるがまだ十分な性能ではないようだ。このような材料の性能が向上すれば冷房冷却に必要な電力を大幅に低減できる筈だ。この板が液晶のような性質で電気的にその表裏の特性を反転できれば、冷房と暖房が両立できる。将来そのような材料が実現できる日が必ず来るだろう。

スポラディックE層について2019年05月30日

電離層は地上から数十km~数百kmの高さにある空間の粒子が太陽からの紫外線などによりプラスのイオンとマイナスの電子に分かれてプラズマ化して短波の電磁波を反射する性質を持つ。北半球では今頃の5月から6月にかけてはスポラディックE層(Es)という興味深い突発的な密度の高い電離層が100kmくらいの高さに発生しやすい。Esは反射する臨界周波数が高いためFM放送くらいの高い周波数も反射して遠方に電波が届く。Esが発生するのは中緯度地域が多く、日本付近は特にEsが発生しやすい。Esの発生予測については昭和30年頃にJA1KS栗山さんがKSから名付けたキングソロモンの法則が有名である。これは温暖前線が通過する蒸し暑い日に強いEsが発生しやすいという経験則であるが、気象現象はEsの高さ100km程度に比べて十分の一くらいの高さまででしかない。そのような低い場所の気象が電離層生成に関係する筈がないということで否定されている。現在ではEsは次のように説明される。中緯度地帯では,地球磁場の方向が水平より傾きをもっており, 地球磁場の傾きと大気の東または西 向きの風との作用によって,イオンは摩擦力とローレンツ力を受けて鉛直方向に対し上または下向きにドリフト運動する。したがって,ある高度を境にして風が上側で西向き,下側で東向きに吹くようなずれ(shear)があると,その高度にイオ ンと電子がドリフト運動により集積して密度の高い層が形成される。 これをwind shear説と言い、現在最も有力とされている。 しかしこの理論でも説明できないケースもあり未だ完全には解明できていない。キングソロモンの法則は否定されたが、50MHz帯でのEs伝播の発生を観察していると、たしかに日本列島が晴れ渡っている日は発生せず、前線が通過した日あたりに発生することが多い。経験上で考えると気象現象がEsに関係ないとまでは言い切れないように思われる。例えば、これは想像に過ぎないが前線により暖気が超高層まで上昇してプラズマ雲を生成するための大気の流れ(wind shear)に何らかの重要な影響を与えているのではないかとも考えられないだろうか?Esについては未だ分かっていない面があり、アマチュアの研究テーマとしても面白いかもしれない。