電磁界シールドの難しさ ― 2025年02月15日

ラジオ工作の趣味はノイズやシールドとの闘いである。
ラジオ作りを始めた頃からノイズや発振に悩まされた。
古くは高1ラジオを作った頃。高1とは高周波増幅1段のストレートラジオのこと。
高周波増幅管6D6にはシールドケースを被せなければならないことやアンテナコイルとプレート側同調コイルとはシャーシの上側とシャーシ内側とに離して取り付けることで静電結合を防ぎ、又一方は立てて他方は寝かせるようにすることで磁力線を直交させて電磁的結合も防いだ。
受信機程度ならシールドも比較的容易だが、SSB送信機となると生ずる電磁界の強度も上がるため、かなり本格的なシールドが必要になる。
アマチュアの間でポピュラーな終段管807は足も長くて動作安定性には難があり、ピース缶などでシールドすると共に終段回路全体は大きな板や網で覆うようにして電磁波の漏洩を防ぐのが常道だった。SSB送信機をオールバンドで作ろうとすると色々な発振に悩まされる。バンド切替スイッチは各段間でシールド板を立てて回り込みを防ぐが、スイッチの軸を通して前段に回り込みを起こしてしまう事などもザラであった。
各部品のグランド(接地)への落とし方は最重要で、これにより動作の安定性やノイズ特性が決まる。オーディオでは1点アースが基本だが高周波では部品のリード線を極力短くするために1点ではなく、多点の最短アースを行うがこれはグランドの中で迷流を生じてトラブルの1因となる。従って各増幅段毎に1点アースを守りつつ最短アースも守るという技が必要になる。これを体得するには多くの実製作経験と実験検証や失敗経験が必要だった。
その後、無線機の多くがメーカー製になったおかげでこのような取り組みは過去の話となり、今は安定な無線機を気楽に使える時代になった。しかしメーカー製であっても問題を起こすものはある。ここでは一例としてIC721で経験したトラブルとその解決事例について記す。
ある時、18MHzバンドで送信すると回り込みらしき不安定な状態が発生した。
アンテナを接続した状態で送信出力を上げていくとSWR≒1だったものが突然高いSWRを示した。直ぐには原因がわからないので散歩しながら考えた推定原因は、何らかの発振で、出力周波数が18MHzからずれた状態で送信されるためではないかということ。つまり18MHzで送信している状態ではアンテナとマッチングが取れているのでSWRは正常である。しかし周波数が突然別の周波数にジャンプすればアンテナの共振周波数と異なるからSWRが上昇する現象が説明できる。
そこで出力端子にオシロスコープを繋いで波形観測を行った。
18MHzCWモードで徐々に出力を上げていくと、40Wを出したところで5W位のパワー増が一時的に発生する。そのときのオシロ波形は、周波数が高いため見にくいが、明らかに歪があり、正弦波の波形から突然頂部が斜めに尖った感じの歪み波形に転じる。何らかの異常発振を起こしているようだ。これがSWR変化の原因と推定できる。そのあと、21MHz及び14MHzで同様なテストを試みたが発生なし。18MHzだけの現象のようだった。出力は40W程度が発生しやすく、18MHzの送信出力が突然19MHz辺りにジャンプする。
そこから出力を下げていくと正常に戻り、また40W以上に上げていくと正常化する。
以上の結果から次のような原因仮説が立てられる。
ある出力と周波数の条件でパワーユニットで寄生振動が発生する。この寄生振動は設定周波数とは異なっており、このためアンテナの共振域とずれてSWRは悪化する。
寄生振動は18メガバンドだけのようだが、18メガはBPFが本来21メガ用を共用している簡易的設計であるため、不安定になりやすいのかもしれない。ICOMのパワーユニット設計に問題があるのだろうが、経時的な劣化で基板やシールドの接触不良等が生じて不安定な回路になっている可能性がある。そこでパワーユニットのシールドやアース、接触面酸化などを調べてみることにした。
IC721のパワーユニットを分解した様子が上の画像で、右側がパワーユニット。この上に金属シールド板がねじ止めされて完全シールドする構造になっているがその部分は外した状態。シールド板のメッキを見ると長年を経て表面酸化が多いように見えた。そこでねじ止めする部分を中心に磨いて相手側との接触抵抗を下げることでシールド性を上げてみた。
シールド板をアルミダイカストのパワーユニットに強めのトルクでねじ止めして組み直して再度測定。
今度は18MHzで出力を上げて行っても寄生振動の発生は見られず、正常に動作するようになった。結局シールド板の接触抵抗が増えてパワーユニットのシールドBOX内のグランドに電位差や迷流が生じて電力増幅回路動作が不安定になっていたと考えられる。このような症状に遭遇したのは初めてで、高周波電力増幅回路の難しさを実感した。
ラジオ作りを始めた頃からノイズや発振に悩まされた。
古くは高1ラジオを作った頃。高1とは高周波増幅1段のストレートラジオのこと。
高周波増幅管6D6にはシールドケースを被せなければならないことやアンテナコイルとプレート側同調コイルとはシャーシの上側とシャーシ内側とに離して取り付けることで静電結合を防ぎ、又一方は立てて他方は寝かせるようにすることで磁力線を直交させて電磁的結合も防いだ。
受信機程度ならシールドも比較的容易だが、SSB送信機となると生ずる電磁界の強度も上がるため、かなり本格的なシールドが必要になる。
アマチュアの間でポピュラーな終段管807は足も長くて動作安定性には難があり、ピース缶などでシールドすると共に終段回路全体は大きな板や網で覆うようにして電磁波の漏洩を防ぐのが常道だった。SSB送信機をオールバンドで作ろうとすると色々な発振に悩まされる。バンド切替スイッチは各段間でシールド板を立てて回り込みを防ぐが、スイッチの軸を通して前段に回り込みを起こしてしまう事などもザラであった。
各部品のグランド(接地)への落とし方は最重要で、これにより動作の安定性やノイズ特性が決まる。オーディオでは1点アースが基本だが高周波では部品のリード線を極力短くするために1点ではなく、多点の最短アースを行うがこれはグランドの中で迷流を生じてトラブルの1因となる。従って各増幅段毎に1点アースを守りつつ最短アースも守るという技が必要になる。これを体得するには多くの実製作経験と実験検証や失敗経験が必要だった。
その後、無線機の多くがメーカー製になったおかげでこのような取り組みは過去の話となり、今は安定な無線機を気楽に使える時代になった。しかしメーカー製であっても問題を起こすものはある。ここでは一例としてIC721で経験したトラブルとその解決事例について記す。
ある時、18MHzバンドで送信すると回り込みらしき不安定な状態が発生した。
アンテナを接続した状態で送信出力を上げていくとSWR≒1だったものが突然高いSWRを示した。直ぐには原因がわからないので散歩しながら考えた推定原因は、何らかの発振で、出力周波数が18MHzからずれた状態で送信されるためではないかということ。つまり18MHzで送信している状態ではアンテナとマッチングが取れているのでSWRは正常である。しかし周波数が突然別の周波数にジャンプすればアンテナの共振周波数と異なるからSWRが上昇する現象が説明できる。
そこで出力端子にオシロスコープを繋いで波形観測を行った。
18MHzCWモードで徐々に出力を上げていくと、40Wを出したところで5W位のパワー増が一時的に発生する。そのときのオシロ波形は、周波数が高いため見にくいが、明らかに歪があり、正弦波の波形から突然頂部が斜めに尖った感じの歪み波形に転じる。何らかの異常発振を起こしているようだ。これがSWR変化の原因と推定できる。そのあと、21MHz及び14MHzで同様なテストを試みたが発生なし。18MHzだけの現象のようだった。出力は40W程度が発生しやすく、18MHzの送信出力が突然19MHz辺りにジャンプする。
そこから出力を下げていくと正常に戻り、また40W以上に上げていくと正常化する。
以上の結果から次のような原因仮説が立てられる。
ある出力と周波数の条件でパワーユニットで寄生振動が発生する。この寄生振動は設定周波数とは異なっており、このためアンテナの共振域とずれてSWRは悪化する。
寄生振動は18メガバンドだけのようだが、18メガはBPFが本来21メガ用を共用している簡易的設計であるため、不安定になりやすいのかもしれない。ICOMのパワーユニット設計に問題があるのだろうが、経時的な劣化で基板やシールドの接触不良等が生じて不安定な回路になっている可能性がある。そこでパワーユニットのシールドやアース、接触面酸化などを調べてみることにした。
IC721のパワーユニットを分解した様子が上の画像で、右側がパワーユニット。この上に金属シールド板がねじ止めされて完全シールドする構造になっているがその部分は外した状態。シールド板のメッキを見ると長年を経て表面酸化が多いように見えた。そこでねじ止めする部分を中心に磨いて相手側との接触抵抗を下げることでシールド性を上げてみた。
シールド板をアルミダイカストのパワーユニットに強めのトルクでねじ止めして組み直して再度測定。
今度は18MHzで出力を上げて行っても寄生振動の発生は見られず、正常に動作するようになった。結局シールド板の接触抵抗が増えてパワーユニットのシールドBOX内のグランドに電位差や迷流が生じて電力増幅回路動作が不安定になっていたと考えられる。このような症状に遭遇したのは初めてで、高周波電力増幅回路の難しさを実感した。
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