オーディオアンプの妄想2020年11月17日

プッシュプル電力増幅器の片側の入力を止めるとどんな動作になるだろうか?
実は最近音楽を聴きながらシングル出力管の真空管アンプの独特な音を聴いてみたくなった。そこで使っていない6CA7プッシュプル(A級)のアンプをA級シングル化できないかと考えてみた。簡単にこれを実現するには片方の球を抜いてバイアスのみ再調整すればよい。しかしその場合出力トランスの直流磁化の問題が生ずる。プッシュプル用の出力トランスは巻き線を流れる電流が打ち消しあうように作用するため直流磁化は無視して設計できる。だがプッシュプル用の出力トランスをシングルで使おうとすると巻き線の電流は打ち消されず直流磁化されてインダクタンスが減少してしまい、低域特性が悪化する。そこで6CA7の片方をダミーにして逆方向直流アイドリング電流だけ流し、そのグリッドにはバイアス電圧のみにして信号を加えなければトランスの直流電流を打ち消した状態でシングル動作ができるのでプッシュプル用出力トランスでも使用可能になるのではないかと思いついた。しかしこれはそれほど単純ではなさそうだ。片方の6CA7がグリッド入力信号によりスイングされる時、出力トランスの1次側巻き線には信号成分の交流電圧が生ずる。この電圧はトランスの一次巻き線を介してもう一方の6CA7(ダミー)のプレートにも同じ振幅でかつ逆位相に加わることになるから、結局ダミーの6CA7は他方の6CA7により一種のプレート変調されることになる。つまりダミーの6CA7には交流出力電圧が逆位相で加わる。ここで6CA7のEp-Ip(プレート電圧対プレート電流)特性曲線を見るとコントロールグリッドはバイアス電圧一定で信号がなくてもEpの変動に伴いプレート電流が緩やかに概略正比例変動することが推定できる。この結果出力トランスには片方の6CA7の出力以外に変調されたダミー6CA7の信号が加わることになるので歪の発生要因になる。さらにダミーの6CA7は負荷の一部となって出力信号を消費してしまうのではないか?(この辺はあまり自信がない) ややこしい話になったのでこれ以上は 実際にプッシュプルアンプを使って片方のみの動作との比較実験をやってみるほうが早そうだ。予想としては直流磁化を承知でプッシュプルのうち片方の6CA7だけ外した形のほうが良さそうに思える。

オーディオアンプの妄想(2)2020年11月21日

前回、真空管のプッシュプルアンプをシングルで使うには単に片方(ダミー側)の球のグリッド入力をなくしただけでは駄目だという結論になった。理由は球のEp-Ip特性カーブに傾きがあるためである。それならばこのEp-Ip特性をEp変化の範囲内で完全フラットにすることでEpが変化してもIpは一定値を保つようにしてやればよい。これを実現するためにはダミー側6CA7のカソードに定電流回路を組み込むことでプレート電流の一定化を図ることが可能になる。これにより、まず電力増幅を担う一方の6CA7のプレートには入力信号に応じた交流電圧が生じ、この電圧はトランスの一次巻き線を介してもう一方の6CA7(ダミー)のプレートにも同じ振幅でかつ逆位相に加わる。しかしダミー側の6CA7のカソードには定電流回路が直列に入ることにより、出力トランスの一次巻き線上の交流電圧出力が変動してもダミー側6CA7のプレート電流は全く変動しない回路動作になる。従って6CA7は一本だけが電力増幅管として動作し、ダミー側の6CA7はその電力増幅に何の悪影響も与えない単なる直流キャンセラーとして動作する。この結果完全なシングルアンプとしての動作が実現できる。わざわざシングルアンプを組むのにこのような複雑で効率の悪いことをやる必要はないが、出力トランスへの悪影響のないシングルアンプが理論上可能となる。実際に6CA7を3極管接続した理想的なA級シングルアンプの特性がどれだけ期待できるものかはわからないが、アマチュアの興味で試してみるのも面白そうだ。6CA7の三結A級プッシュプルアンプと6CA7の三結A級シングルアンプを出力トランスというパラメータ除外した形で聞き比べることが可能となる。

鉛筆立て2020年11月28日

家の中を片付けていたら大きな鉛筆立てが出てきた。しばらく見ていたら段々昔使っていた記憶が蘇った。引っ越しの時の荷物に紛れてそのまま仕舞い込まれていたらしい。鉛筆やボールペンが沢山入れられたままだった。ボールペンは意識的に先を下に向けておいたせいか重力の効果でインク切れの起こっていないものが多く、そのまま書けたのにはちょっと驚いた。この鉛筆立ては誰かに貰ったような気がするのだが残念なことに誰に貰ったのか覚えていない。何の変哲もない代物だが古い世界地図の一部が描かれていて少し面白いデザインなのでカメラで撮ってみた。ボールペンなどは机の中にいつのまにか増えてしまって処置に困るのだけれど、使えるものだけ選り分けてこのような大きい鉛筆立てに移して何時でも手に取れるようにしてやれば机の中が使われないペンだらけになるのを防げる。もう筆記の試験などの習慣からも遠ざかったせいか鉛筆も沢山使わないまま死蔵されているが、書き直し可能という点で鉛筆は優れている。図面などを引く時や絵を描くときはやはり鉛筆に限る。鉛筆もまだまだ生かすように心がけたい。もう長い間パソコンばかり使うようになって字を書くということをしなくなった。もともと不得意だった漢字はさらに忘れて書けなくなったし、下手な字がさらに下手になって最近はおぞましい状態になっている。目の前に鉛筆立てと紙を置いていつでも書ける状態にしておけば少しは状況を改められるだろうか。

オーディオアンプの妄想(3)2020年11月29日

前回、直流キャンセル用の6CA7のカソードに定電流回路を入れることを思いついたが、どうも違和感があった。それは定電流回路の周波数特性。理想的には定電流回路が高いインピーダンスを持ち、それが広い周波数特性と優秀な過渡応答性を持たないとそもそも目論見が成り立たないのではないかということ。だが実際にこのような特性の定電流回路の実現が可能なのか良くわからない。そのような特性の定電流回路が得られたにしても、それで構成されたアンプの回路全体のシミュレーションや計算なりをやって入力対出力の特性を客観評価しないととんでもない誤りを起こしそうである。そのため現在は思考実験の途中で挫折中。シングル出力管で理想のアンプを目指すのはやはりかなりの困難を伴いそうであり、解自体が無いかもしれないとも思えてきた。
これとは関係なく仕事で全く別の課題を取り組んでいたときもそうだったが、最初良いと思われるアイディアからスタートしても考えを進めるうちに考え方の間違いや解決困難な問題が必ず立ち塞がる。どうしてもブレークスルーが思いつかない場合、そのアイディアは素性が良くなさそうだと捨てて別の方向からアプローチするように方向転換することが少なからずあった。この思い切りが功を奏したこともあったし、諦めるのが早過ぎて判断を見誤ったこともあった。見誤るのはいつでもその問題への知見の不足や深く考え抜き切れなかった場合だったようだ。技術的判断というものはいつの場合でも難しい。