バカの災厄2022年12月01日

池田清彦著:宝島社新書。頭が悪いとはどういうことか?著者が述べるバカとは自分の思考概念こそが正しくて他人も同じことを考えなければおかしいと考える人のこと。つまり自分が考える正義は絶対に正しく、他の人も同じ正義を信じなければならないと思い込んでいる人のことである。著者によれば人間は別のものを同じとみなす「概念化」と呼ぶ能力を持っている。例えば人は名前と本人とが同一であるという概念を自然に持っている。考えてみればリンゴが3つあるのもミカンが3つあるのも夫々は別の果物なのに同じ3つと捉えられる。この数の概念のおかげで数学が発達したというのをどこかで聞いた覚えがある。この概念化能力こそ人間を人間たらしめている知性の根源とも言えそうだが、もともとは抽象化して考えるいいかげんなやり方から始まっている。概念はこのいい加減さから生まれたものだが、これが絶対正しいと考えた時に色々な問題が生じてくる。
この社会や世界には色々な考え方があるのにバカは特定の考え方だけが絶対的に正しいと信じ込み、正しくて確かなものと思い込む。そうして自分の正義を主張することになると著者は言う。私も過去にそのような傾向はあったので読みながら反省した。振り返れば何度も間違う経験を積む中で自分の考えの浅さを認識し、違う考え方も多少は受け容れられるようになってきたかなというところか。そもそも絶対的に正しいことなどこの世の中には存在しない。科学的知見も時代を経て変わっていく。人間の考えなど元々いい加減なものなのだと認識すれば自分の正義に拘ることも無くなってくるというのが本書の主張。自分の考えの正しさに固執せず、多様な考え方に目を向けよと述べている。本書も後半には著者自身が固定概念に縛られているのではないかと思われるような所もあったが概ね面白く読めた。

トラ技1月号の付録2022年12月16日

発売中のトランジスタ技術2023年1月号にトランジスタ技術創刊号の復刻版が付録で付いた。創刊号は1964年10月号で私が中学生の頃だった。当時もトランジスタ技術の発行は知っていたが中学生のためトラ技まで購入できず本屋で立ち読みする程度だった。CQ出版はたまに創刊号の復刻をやる。CQ誌では1965年9月号にCQ誌創刊号がとじ込み付録で付いたのを覚えている。CQ創刊号は昭和21年頃発行でハムの草分け達が執筆していて内容も興味深く面白かった。この復刻版は今も家に保存されていると思う。
さて、トランジスタ技術創刊号だが完全復刻で内容はCQ誌のトランジスタ版のようにアマ無線関連の記事が多い。執筆者も大蔵恭仁夫氏、中西利通夫氏、奥澤清吉氏、杉本哲氏、江崎昌男氏、金平隆氏などの当時良く目にした先輩アマチュア無線家達の名前が並んでいる。製作記事では例えば50MHzの12石AMトランシーバが中々の力作。送信部は水晶発振で50.3MHz固定、入力1W程度。受信部はダブルスーパーというオーソドックスな構成だが写真を見るとコンパクトで良くまとまっている。変調回路は送信部2ステージの終段コレクタ変調と同時に発振段にも変調信号を整流して正側変調電圧を加えることで歪を少なくするという工夫をしているのも興味深い。受信部は今では使われていないゲルマニウムトランジスタで構成されている。そのほかの記事も初心者向けで、当時のラジオの製作や初歩のラジオと非常によく似た郷愁を感じる内容になっている。広告も懐かしい会社のものばかりで、アルプスやミツミ、トヨムラ、DELICA、山水トランス、リーダーなどのパーツや測定器の当時の広告を再び見ることができて感激した。当時のトラ技の販売価格は150円でCQ誌と同じ価格だった。勿体ないので少しずつ読んでいる。