IC721の送信歪特性改良 ― 2025年02月04日
IC721という古いHF無線機がある。35年ほど前に購入した安物の機械。
回路はシンプルなアナログ機で基板も現代のような表面実装型ではなく、個々の部品をプリント基板に挿入し半田付けする古典的な構造だ。このため部品交換や改造がし易いし、故障しても修理が容易で気に入っている。これまで何度も故障したが自分で修理して現在も使用可能な状態にある。この無線機に自作のアナログインターフェースを取り付けてFT8を運用していたが、その送信信号をIC7300のオーディオスペクトラム表示でモニターしてみると重大な問題のあることに気が付いた。
低周波信号を入力すると2次3次の高調波が大きく、第2次高調波を見ると最大出力時―20dB程度にまで達する。1500Hz以上ならSSBフィルタの帯域は2400Hz程度なので第二高調波は3000Hz以上となって抑止できるが、例えば300Hz~1200Hzの入力だと第2高調波が600Hz~2400Hzに発生しフィルタは通過してしまう。結局周波数の低い領域で使うと帯域内スプリアスを発生させて他局に迷惑をかけることになる。
最新の無線機ではFT8の信号波生成をUSB接続のデジタル処理で行うため非常にクリーンで、このような問題は発生しなくなった。一方古い無線機でFT8を行う場合は、PCで生成したアナログのFT8低周波信号をSSB送信機のマイク入力に接続し、平衡変調を行ってDSB波形を生成したあとフィルタで片側波帯を切り落としてSSBを生成する。得られた信号は振幅変動のないFM波に近いものとなるため以降の増幅器が非線形であっても歪を生ずることはない。しかしその前段である平衡変調器までは振幅変調が行われるので回路に非線形性があると信号に歪を生ずる。つまり平衡変調器及びその前段の低周波増幅器までの回路に非線形性があると信号に歪が発生する。これが第2第3高調波歪として現れる。IC721でも歪を発生させているのはマイクアンプと平衡変調器のいずれか又は両方が考えられる。
IC721は元々スピーチコンプレッサのような積極的に歪を生じさせる回路はないので歪の発生源は限られる。以前マイク入力部にダイオードクリッパを付加したことがあるが、これはFT8の信号入力回路には存在しないので問題はない。
どこで歪が生じているのかを調べるのも良いが、FT8低周波のレベルと高調波レベルとの関係を観測してみると、あるレベルから急に歪が増大していることが判った。つまり低周波回路から平衡変調器までのどこかがオーバーレベルで飽和することが原因と推定できる。ならば入力レベルを下げて歪発生を最小にし、そのレベルを下げた分、後段でゲインを上げて補えば良いことになる。
このような方針を立てて回路を調べて行くと後段の高周波増幅回路部にレベル調整用のポテンシオメータR85があることが判った。R85のレベルを上げてその分低周波入力を下げてみると、期待通り歪が低減し、高調波レベルの下がることが確認できた。IC7300のオーディオスペクトラムモニターで確認しながらレベル調整し、出力最大時でも第二高調波レベルを-40dB以下まで下げることが出来た。但し変調度はかなり下がっているので今度はSSBのキャリア漏れが懸念されるがキャリア漏れも-40dB以下であることが確認できた。恐らく昔のSSB送信機はオーディオ信号の変調歪があってもフィルターで切れると考えてあまりレベル配分を気にしてはいなかったのだろう。この報告は昔の無線機でFT8を運用する場合の参考になればと思う。
これでIC721でも問題なくFT8の運用ができることになったが、SSBの音声でも歪が低減して良好になった。
回路はシンプルなアナログ機で基板も現代のような表面実装型ではなく、個々の部品をプリント基板に挿入し半田付けする古典的な構造だ。このため部品交換や改造がし易いし、故障しても修理が容易で気に入っている。これまで何度も故障したが自分で修理して現在も使用可能な状態にある。この無線機に自作のアナログインターフェースを取り付けてFT8を運用していたが、その送信信号をIC7300のオーディオスペクトラム表示でモニターしてみると重大な問題のあることに気が付いた。
低周波信号を入力すると2次3次の高調波が大きく、第2次高調波を見ると最大出力時―20dB程度にまで達する。1500Hz以上ならSSBフィルタの帯域は2400Hz程度なので第二高調波は3000Hz以上となって抑止できるが、例えば300Hz~1200Hzの入力だと第2高調波が600Hz~2400Hzに発生しフィルタは通過してしまう。結局周波数の低い領域で使うと帯域内スプリアスを発生させて他局に迷惑をかけることになる。
最新の無線機ではFT8の信号波生成をUSB接続のデジタル処理で行うため非常にクリーンで、このような問題は発生しなくなった。一方古い無線機でFT8を行う場合は、PCで生成したアナログのFT8低周波信号をSSB送信機のマイク入力に接続し、平衡変調を行ってDSB波形を生成したあとフィルタで片側波帯を切り落としてSSBを生成する。得られた信号は振幅変動のないFM波に近いものとなるため以降の増幅器が非線形であっても歪を生ずることはない。しかしその前段である平衡変調器までは振幅変調が行われるので回路に非線形性があると信号に歪を生ずる。つまり平衡変調器及びその前段の低周波増幅器までの回路に非線形性があると信号に歪が発生する。これが第2第3高調波歪として現れる。IC721でも歪を発生させているのはマイクアンプと平衡変調器のいずれか又は両方が考えられる。
IC721は元々スピーチコンプレッサのような積極的に歪を生じさせる回路はないので歪の発生源は限られる。以前マイク入力部にダイオードクリッパを付加したことがあるが、これはFT8の信号入力回路には存在しないので問題はない。
どこで歪が生じているのかを調べるのも良いが、FT8低周波のレベルと高調波レベルとの関係を観測してみると、あるレベルから急に歪が増大していることが判った。つまり低周波回路から平衡変調器までのどこかがオーバーレベルで飽和することが原因と推定できる。ならば入力レベルを下げて歪発生を最小にし、そのレベルを下げた分、後段でゲインを上げて補えば良いことになる。
このような方針を立てて回路を調べて行くと後段の高周波増幅回路部にレベル調整用のポテンシオメータR85があることが判った。R85のレベルを上げてその分低周波入力を下げてみると、期待通り歪が低減し、高調波レベルの下がることが確認できた。IC7300のオーディオスペクトラムモニターで確認しながらレベル調整し、出力最大時でも第二高調波レベルを-40dB以下まで下げることが出来た。但し変調度はかなり下がっているので今度はSSBのキャリア漏れが懸念されるがキャリア漏れも-40dB以下であることが確認できた。恐らく昔のSSB送信機はオーディオ信号の変調歪があってもフィルターで切れると考えてあまりレベル配分を気にしてはいなかったのだろう。この報告は昔の無線機でFT8を運用する場合の参考になればと思う。
これでIC721でも問題なくFT8の運用ができることになったが、SSBの音声でも歪が低減して良好になった。
電磁界シールドの難しさ ― 2025年02月15日

ラジオ工作の趣味はノイズやシールドとの闘いである。
ラジオ作りを始めた頃からノイズや発振に悩まされた。
古くは高1ラジオを作った頃。高1とは高周波増幅1段のストレートラジオのこと。
高周波増幅管6D6にはシールドケースを被せなければならないことやアンテナコイルとプレート側同調コイルとはシャーシの上側とシャーシ内側とに離して取り付けることで静電結合を防ぎ、又一方は立てて他方は寝かせるようにすることで磁力線を直交させて電磁的結合も防いだ。
受信機程度ならシールドも比較的容易だが、SSB送信機となると生ずる電磁界の強度も上がるため、かなり本格的なシールドが必要になる。
アマチュアの間でポピュラーな終段管807は足も長くて動作安定性には難があり、ピース缶などでシールドすると共に終段回路全体は大きな板や網で覆うようにして電磁波の漏洩を防ぐのが常道だった。SSB送信機をオールバンドで作ろうとすると色々な発振に悩まされる。バンド切替スイッチは各段間でシールド板を立てて回り込みを防ぐが、スイッチの軸を通して前段に回り込みを起こしてしまう事などもザラであった。
各部品のグランド(接地)への落とし方は最重要で、これにより動作の安定性やノイズ特性が決まる。オーディオでは1点アースが基本だが高周波では部品のリード線を極力短くするために1点ではなく、多点の最短アースを行うがこれはグランドの中で迷流を生じてトラブルの1因となる。従って各増幅段毎に1点アースを守りつつ最短アースも守るという技が必要になる。これを体得するには多くの実製作経験と実験検証や失敗経験が必要だった。
その後、無線機の多くがメーカー製になったおかげでこのような取り組みは過去の話となり、今は安定な無線機を気楽に使える時代になった。しかしメーカー製であっても問題を起こすものはある。ここでは一例としてIC721で経験したトラブルとその解決事例について記す。
ある時、18MHzバンドで送信すると回り込みらしき不安定な状態が発生した。
アンテナを接続した状態で送信出力を上げていくとSWR≒1だったものが突然高いSWRを示した。直ぐには原因がわからないので散歩しながら考えた推定原因は、何らかの発振で、出力周波数が18MHzからずれた状態で送信されるためではないかということ。つまり18MHzで送信している状態ではアンテナとマッチングが取れているのでSWRは正常である。しかし周波数が突然別の周波数にジャンプすればアンテナの共振周波数と異なるからSWRが上昇する現象が説明できる。
そこで出力端子にオシロスコープを繋いで波形観測を行った。
18MHzCWモードで徐々に出力を上げていくと、40Wを出したところで5W位のパワー増が一時的に発生する。そのときのオシロ波形は、周波数が高いため見にくいが、明らかに歪があり、正弦波の波形から突然頂部が斜めに尖った感じの歪み波形に転じる。何らかの異常発振を起こしているようだ。これがSWR変化の原因と推定できる。そのあと、21MHz及び14MHzで同様なテストを試みたが発生なし。18MHzだけの現象のようだった。出力は40W程度が発生しやすく、18MHzの送信出力が突然19MHz辺りにジャンプする。
そこから出力を下げていくと正常に戻り、また40W以上に上げていくと正常化する。
以上の結果から次のような原因仮説が立てられる。
ある出力と周波数の条件でパワーユニットで寄生振動が発生する。この寄生振動は設定周波数とは異なっており、このためアンテナの共振域とずれてSWRは悪化する。
寄生振動は18メガバンドだけのようだが、18メガはBPFが本来21メガ用を共用している簡易的設計であるため、不安定になりやすいのかもしれない。ICOMのパワーユニット設計に問題があるのだろうが、経時的な劣化で基板やシールドの接触不良等が生じて不安定な回路になっている可能性がある。そこでパワーユニットのシールドやアース、接触面酸化などを調べてみることにした。
IC721のパワーユニットを分解した様子が上の画像で、右側がパワーユニット。この上に金属シールド板がねじ止めされて完全シールドする構造になっているがその部分は外した状態。シールド板のメッキを見ると長年を経て表面酸化が多いように見えた。そこでねじ止めする部分を中心に磨いて相手側との接触抵抗を下げることでシールド性を上げてみた。
シールド板をアルミダイカストのパワーユニットに強めのトルクでねじ止めして組み直して再度測定。
今度は18MHzで出力を上げて行っても寄生振動の発生は見られず、正常に動作するようになった。結局シールド板の接触抵抗が増えてパワーユニットのシールドBOX内のグランドに電位差や迷流が生じて電力増幅回路動作が不安定になっていたと考えられる。このような症状に遭遇したのは初めてで、高周波電力増幅回路の難しさを実感した。
ラジオ作りを始めた頃からノイズや発振に悩まされた。
古くは高1ラジオを作った頃。高1とは高周波増幅1段のストレートラジオのこと。
高周波増幅管6D6にはシールドケースを被せなければならないことやアンテナコイルとプレート側同調コイルとはシャーシの上側とシャーシ内側とに離して取り付けることで静電結合を防ぎ、又一方は立てて他方は寝かせるようにすることで磁力線を直交させて電磁的結合も防いだ。
受信機程度ならシールドも比較的容易だが、SSB送信機となると生ずる電磁界の強度も上がるため、かなり本格的なシールドが必要になる。
アマチュアの間でポピュラーな終段管807は足も長くて動作安定性には難があり、ピース缶などでシールドすると共に終段回路全体は大きな板や網で覆うようにして電磁波の漏洩を防ぐのが常道だった。SSB送信機をオールバンドで作ろうとすると色々な発振に悩まされる。バンド切替スイッチは各段間でシールド板を立てて回り込みを防ぐが、スイッチの軸を通して前段に回り込みを起こしてしまう事などもザラであった。
各部品のグランド(接地)への落とし方は最重要で、これにより動作の安定性やノイズ特性が決まる。オーディオでは1点アースが基本だが高周波では部品のリード線を極力短くするために1点ではなく、多点の最短アースを行うがこれはグランドの中で迷流を生じてトラブルの1因となる。従って各増幅段毎に1点アースを守りつつ最短アースも守るという技が必要になる。これを体得するには多くの実製作経験と実験検証や失敗経験が必要だった。
その後、無線機の多くがメーカー製になったおかげでこのような取り組みは過去の話となり、今は安定な無線機を気楽に使える時代になった。しかしメーカー製であっても問題を起こすものはある。ここでは一例としてIC721で経験したトラブルとその解決事例について記す。
ある時、18MHzバンドで送信すると回り込みらしき不安定な状態が発生した。
アンテナを接続した状態で送信出力を上げていくとSWR≒1だったものが突然高いSWRを示した。直ぐには原因がわからないので散歩しながら考えた推定原因は、何らかの発振で、出力周波数が18MHzからずれた状態で送信されるためではないかということ。つまり18MHzで送信している状態ではアンテナとマッチングが取れているのでSWRは正常である。しかし周波数が突然別の周波数にジャンプすればアンテナの共振周波数と異なるからSWRが上昇する現象が説明できる。
そこで出力端子にオシロスコープを繋いで波形観測を行った。
18MHzCWモードで徐々に出力を上げていくと、40Wを出したところで5W位のパワー増が一時的に発生する。そのときのオシロ波形は、周波数が高いため見にくいが、明らかに歪があり、正弦波の波形から突然頂部が斜めに尖った感じの歪み波形に転じる。何らかの異常発振を起こしているようだ。これがSWR変化の原因と推定できる。そのあと、21MHz及び14MHzで同様なテストを試みたが発生なし。18MHzだけの現象のようだった。出力は40W程度が発生しやすく、18MHzの送信出力が突然19MHz辺りにジャンプする。
そこから出力を下げていくと正常に戻り、また40W以上に上げていくと正常化する。
以上の結果から次のような原因仮説が立てられる。
ある出力と周波数の条件でパワーユニットで寄生振動が発生する。この寄生振動は設定周波数とは異なっており、このためアンテナの共振域とずれてSWRは悪化する。
寄生振動は18メガバンドだけのようだが、18メガはBPFが本来21メガ用を共用している簡易的設計であるため、不安定になりやすいのかもしれない。ICOMのパワーユニット設計に問題があるのだろうが、経時的な劣化で基板やシールドの接触不良等が生じて不安定な回路になっている可能性がある。そこでパワーユニットのシールドやアース、接触面酸化などを調べてみることにした。
IC721のパワーユニットを分解した様子が上の画像で、右側がパワーユニット。この上に金属シールド板がねじ止めされて完全シールドする構造になっているがその部分は外した状態。シールド板のメッキを見ると長年を経て表面酸化が多いように見えた。そこでねじ止めする部分を中心に磨いて相手側との接触抵抗を下げることでシールド性を上げてみた。
シールド板をアルミダイカストのパワーユニットに強めのトルクでねじ止めして組み直して再度測定。
今度は18MHzで出力を上げて行っても寄生振動の発生は見られず、正常に動作するようになった。結局シールド板の接触抵抗が増えてパワーユニットのシールドBOX内のグランドに電位差や迷流が生じて電力増幅回路動作が不安定になっていたと考えられる。このような症状に遭遇したのは初めてで、高周波電力増幅回路の難しさを実感した。
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