真空管とトランジスタ2019年05月02日

私は真空管を使う電子工作で子供時代を過ごしたので今でも真空管はトランジスタよりも親しみがある。しかし今日ではトランジスタなしには何も出来ないほどの時代になり、真空管で学んだことは役に立たなくなってしまった。このように技術というものは新しい技術が出てくると廃れたり陳腐化するという宿命を負っている。しかし温故知新という言葉にもあるように古い経験もそう馬鹿にできない。真空管はエジソンが高温のフィラメントから電子が放射されるというエジソン効果を発見したことから始まり、フレミングが2極管を発明し、これに続きドフォーレが増幅作用を持つ3極管を発明することで初期の電子機器の主流素子となる。この真空管は真空中の電子の流れを制御するものであるが、鉱石検波器やセレン整流器などの半導体によっても2極真空管と同じ作用をすることが当時から分かっていた。真空管からの類推でこのような半導体に第三の制御電極を加えれば増幅作用を持たせられるのではないかということで世界中で半導体の増幅素子の発明を目指した研究が行われる。真空管というものが先例であったおかげで次に目指す素子が何かという研究目標は明確であり、欧米だけでなく日本でもこのような研究をしていたようだ。しかし色々な人が鉱石検波器のような基本構造にさらに各種の材料を加えたり電極を追加するなどで実験したがどれも成功には至らなかった。その理由は真空管の動作原理からの類推発想から抜け出せなかったためで、そのような方向性の線上には解は見つからなかった。実は解は電子のエネルギーが量子化されているという新しい原理を踏まえたところにあったのである。目指すべきは漸進的改良ではなく不連続なイノベーションが必要だったということを後で知らされることになる。しかし不連続なイノベーションだけが素晴らしいのではない。ショックレーらによるトランジスタの大発明の前に、真空管からの発想で実験を繰り返している人たちの中で、半導体整流器の材料に別の材料や電極を接触させ、各電極のバイアス電圧を振って実験しているうちに大きく電流が変化するような現象を偶然に発見しており、これがショックレーらの研究の重要ヒントになっているようだ。イノベーションは突然起こるのではなく、我慢強い漸進的改良研究の中で偶然にイノベーションの種が生まれたとも言えるかもしれない。

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