近似という考え方2019年04月26日

技術の世界では近似というものが重宝される。対象となる事象に合わせて要求精度を見定める。だから徒に精緻な値を追求することはなく、適切な近似で処理する。これは医学分野ではもっと大胆で、こうやってみたら治ったとかいう極めて大雑把な経験則が使われている。しかし自然科学ではより精緻へと向かうことが進歩だという一面がある。例えば相対性原理はたしかに速度の速い運動を扱う場合にはニュートン力学よりも精度が高い。しかしだからと言ってニュートン力学は間違っているわけではない。相対性原理で運動方程式を立てると質量に関する速度補正項が加わる。だから、ニュートンの運動方程式は相対論的運動方程式の近似式であるということができ、速度が低い運動の場合はニュートンの運動方程式で十分な精度の計算が可能となる。むしろ相対論が出てきてもニュートン理論は消え去るのではなく、部分的に補正を加えられただけで生き残っているということがニュートンの理論の本質的正しさを物語っていると言えるだろう。ニュートンの万有引力の法則では質量同士が遠くの空間から遠隔的に引き合っていると想定している。しかし相対論では、遠隔的な力ではなく、質量の存在による空間の歪み即ち重力場ができることによって引き合うと論じる。つまり、不可思議な遠隔的な力ではなく、近接的な場の歪みという具体的なモデルで困難な問題の解決をした。この考え方はファラデーの発想と似ている。電気的な力はファラデー以前ではクーロンによって万有引力と同じ逆二乗則で表される遠隔的な力と考えた。しかしファラデーはそうではなく、空間にある電場の歪みによるものと考えた。この考え方がマクスウェルによって理論式化され、電磁波方程式が確立した。アインシュタインもおそらくファラデーの場の歪みの考え方から重力場の発想に至ったのだろう。通常の電気回路では電線の中を電流が流れるという考え方で回路設計がなされている。しかしファラデーの考え方によれば電線の中を電流が流れるのではなく、電線のまわりの空間に電磁場ができて、電磁相互作用で電気が伝わっていることになる。しかし通常の電気回路ではそのように考えなくても単純な電流という考え方で設計してもある程度は差し支えない。逆に何でも電磁波の考え方で設計したらとんでもなく複雑で難しい設計作業になってしまう。機構を設計するときの運動解析も同じで、ニュートン力学でことたりる。このように通常の現実世界で実用的に処理をするためには近似という考え方で単純化することが大事である。近似とは異なるが医学も現実の医療現場で一刻を争う病気に対処するために経験則を使うのも実用的だからであろう。技術とはそういうもので、徒に精度や細かい正しさに拘るのではなく、対象や目的に見合ったマクロな見方で単純化することが大事だと言えるだろう。

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