読書 神々の愛でし人2019年04月02日

神々の愛でし人(インフェルト著、日本評論社)原題Whom the gods love は二十歳で亡くなった天才数学者ガロアの生涯を描いたもの。ガロアは中学生時代から数学の論文を提出するなどしていたが不運にも認められなかった。教師たちはガロアの能力を理解できず、ガロアはエコールポリテクニークの試験にも落ち、仕方なくエコールノルマルに入学する。18歳の頃にフランスの7月革命を体験するが、王政に対立する共和主義者として学生運動にのめり込む。彼は英雄的な政治運動に憧れたが、共和主義者の間にさえ尊敬に値する人物ばかりでなく、侮蔑して闘わねばならない人物もいることを知る。英雄的行為と卑劣なやり口、誠実と犯罪、すばらしい頭脳と愚鈍。彼が見る風景は光と影の世界だった。彼は闘争の中で逮捕されて投獄される。その後刑期を終えて彼が20歳の時、共和主義者の友人と女の取り合いとなり決闘に及ぶことになるが、その前日に死を意識した時、彼の数学理論を残さねばならないと気づく。当時の代数学の関心の一つは5次方程式の根の公式を求めることだったが、ガロアより早くアーベルが5次方程式は代数的な一般解がないことを証明した。しかしガロアは方程式そのものを解くのではなく、その性質である解の対称性に着目して解の有無を判定できる方法を発見した。これにより5次方程式に限らず何次方程式であっても解の有無を判定できるようになり数学の革命を導いた。このような素晴らしい才能を持ったガロアが一方ではつまらない決闘で命を落とすという対照的な行動を取るのも同じ若者の心の表裏の対称性なのかもしれない。この本の第二版は1969年だが、訳者は1830年代のガロアなどの学生運動と1960年代末に世界中に見られた大学紛争の問題との内面的な繋がりを第二版へのあとがきで指摘している。

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